静水骨格……生きものの驚異

ブログ「羽鳥操の日々あれこれ」より


2012.3.7

 フリー・ジャーナリストのキタムラさんから、一冊の本を紹介された。
『生物学的文明論』本川達雄著(新潮新書423/2011年6月20日発行)
『ゾウの時間 ネズミの時間』の著者で、歌う生物学者として有名な方の著書だ。


 一気に読み終えたが、とりわけ第四章「生物と水の関係」が圧巻だった。
 脊椎動物は骨を介して拮抗筋が働き、動きが成立する。
 それに対して水が骨の代わりをする「静水骨格」(静水力学的骨格)の生きものの例としてミミズが登場し、どのようなメカニズムで体全体の移動が可能かが明快に解き明かされていく。ワクワクするところだ。
 ぜひ、ご一読をすすめます。


 で、ここに書かれている大元となった小論文を、以前にすでに読んでいたことを思い出した。
 その本にたどり着く経緯は、次のようなことがきっかけだった。
 正確な日付を失念してしまったが、朝日新聞に田中豊一(たなか とよいち)マサチューセッツ工科大学教授の死亡を伝える記事が載った。生命の起源をゲルに探る研究をしていた優秀な研究者で、はやすぎる死は非常に惜しいという内容だった。さっそく手に入れた本が『生命現象と物理学』北原和夫+田中豊一編 朝倉書店だった。「〈生きもの〉と〈もの〉の間」をテーマとして、八名の研究者の小論文を編んだものだ。
 そのなかに本川達雄氏の「価値・時空・ナマコの皮」も掲載されていたわけだ。


 さて、今、NHKラジオ第二放送講演原稿を一般書とした『生物学的文明論』を読んだ後に、専門書に書かれた論文を読み直すと不思議なくらいに理解できるようになった。
 それは不思議ではないのかもしれない。結局のところ、生きものの生態を具体的に解き明かしながら、文明批評を行っているのだが、平易な言葉と興味深い喩えで、語られているからに違いない。
 現代社会を作り上げている技術と貨幣経済の背景に、数学と物理学がある。しかし、数学・物理学的発想ばかりで、今、現在、起こっている数々の問題を解決しようとしてもそれには限界がある。深刻化するだけだ、と柔らかな発想をもって警鐘を鳴らしている。
 生物の本質から見るならば当然おかしいと思えることを、まかり通してしまうことへ誰もが危機感を持つ必要性を訴えていく。巻末に「ナマコ讃歌」(笑)の楽譜をつけるという、硬軟取り揃えているところがミソ!


 実は、文明批評を脇に置いて、生命現象の素晴らしさ面白さを読み取るだけでも、自然に生かされている希有な人間存在、そのものに驚嘆せざるをえない。
 なによりも野口三千三が1972年に著した『原初生命体としての人間』の発想と主張に同じくする通奏低音が、全編を通して鳴っているのだから、面白いことこの上ない。


 と、言うわけで、今週の土曜日は、この第四章の一部をテーマに、「骨の役割」「筋肉の働き」「水の驚異」を「からだとその動きの実感」で探ってみたいと思っている。
 ご紹介いただきありがとうございます。この場を借りてお礼!